「愛の手紙 Ⅰ」

古葉茶庵

2010年07月01日 14:17


 「文豪たちの手紙の奥義」……から。
 江戸時代の最末期に生まれた江戸っ子・「夏目漱石」のエピソード。

 妻・鏡子に対する口の悪さは憎らしい減らず口。江戸っ子の悪口雑言を絵に描いたようである。
 ロンドン留学中に妻から届いた手紙の返書(抜粋)

 「久々で写真を以って拝顔の栄を得たが相変わらず御両人(妻と娘)とも滑稽な顔をしているには感服の至りだ。……中略(飾った写真を下宿の主に褒められて)……なに日本じゃこんなのは皆お多福の部類に入れて仕舞うんで美しいのはもっと沢山あるのさと言って愛国的気炎を吐いてやった。筆(娘)の顔などは中々ひょうきんなものだね、この速力で滑稽的方面に変化されてはたまらない。」

 ……なんという言い草、ユーモアが溢れて楽しいが、それにしても度が過ぎる。

 夫婦問題で悩んでいる門下生に「夫婦は親しきを以って原則とし、親しからざるを以って常態とす。細君は始が大事なり、気をつけて御したまえ、女ほどいやなものなし。」と手紙を送っている。

 漱石の書簡2500通の中に一度だけロンドンから「頻(しき)りにお前が恋しい」と漏らしている。一生に一度の告白、稀有な自白の一つとされる。

 筆者曰く
 「揶揄愚弄(やゆぐろう)、悪口雑言、罵詈讒謗(ばりざんぼう)の海原に浮かぶひとひらの優しい言の葉の効き目は言うまでもなく強く大きい

 動かせない事実がある。漱石、鏡子夫妻は2男5女を授かった。